安全で楽しい旅行を

 皆さんは「バス」をよく利用されますか。
街中を走る路線バスや長距離を移動する高速バスなどいろいろな種類のバスがありますが、かつて自分自身が運転していた経験を思い出しながら、バスドライバーを取り巻く状況について書いてみたいと思います。「登録後の体験談」からは離れてしまいますがご容赦ください。 

 今年は大型バスの関係する大きな事故が相次ぎました。8月には名古屋高速で、また10月には富士山5合目でいずれもバスが横転し、大切な命が失われてしまいました。一般的に車体を傷つけないことはもちろん、(見た目が悪くなることもありますがバーストに繋がる可能性も高まるので)タイヤを縁石や道路の段差などにこすって痕を残すことすらないよう注意していることからすると、これは考えられないような事故です。このようなことが相次ぐ背景には業界特有の事情があるような気がします。

 バスのドライバーには労働基準法のほかに「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示といわれています)が適用されることとなっているのですが、主な内容を見ると①1日の拘束時間は(原則)13時間以内②乗務終了後、翌日の乗務開始まで8時間以上の勤務間インターバル③連続運転時間は4時間までなどといったことがかかれています。これらを見て皆さんはどのようにお感じになるでしょうか。

 たくさんの人命を預かるドライバーは(車内事故も含め)無事故であることはもとより、定時運行へのプレッシャー・乗客の乗り心地や社内の空調管理・燃費・周囲の運転者からのクレームを受けない運転など・・・周りからは見えにくい部分にいつも配慮しながらハンドルを握っているのです。告示はこの大きな負担を解消するものとなっているでしょうか。名古屋の事故ではこの最低限の規定すら守られていなかったことを会社側も認めていて、つまり「過労運転」をさせていた可能性が高いことになります。

 また、拘束時間の長さや不規則な勤務時間に比べて低い賃金水準についても指摘がなされています。もともと基本給などは低めの設定となっていて、それを時間外手当や運行手当(名称は各社バラバラ)などで補う賃金構造となっています。しかしながら運行途中、一定の待機時間(観光地での散策時間や学校遠足の野外活動時間など)が発生すると、その一部は休憩しているかのように扱われて、拘束時間は長いが労働時間は短い=時間外手当の抑制・賃金の伸び悩みにつながっています。これでは新しい、特に若い人材が集まらないのも無理はありません。

 加えて現在は高速道路網の整備もすすみ、車両の性能も格段にアップしました。しかしその分、1日の移動距離が伸びる一方、ワンマン運行が増えています。かつてはツーマン運行中に『危ない橋を渡った』経験談を聞いたり、待機中に他社のドライバーと道路の細かな情報のやり取りをするといったこともありました。今は道路の情報が地図アプリや動画配信などで簡単に得られるような時代となり便利さは増していますが、そういった技術やノウハウの伝承の機会が減っているという負の側面も見逃せないと思います。


 いくつか取り上げてみたこのような事柄が慢性的な人手不足を招き、ひいては今回のような大きな事故の原因となっていないか。過重な労働環境や賃金水準の改善など多くの課題を社会の問題ととらえて広く議論し、少しずつでも改善の方向へ向かえば現場のドライバーにも余裕が生まれ、安全運転だけではなく乗客への良質なサービスにもつながるのではないか。そんな風に思うのですが、この記事を読んでくださった方はどのようにお感じになるでしょうか。

投稿者プロフィール

野 博幸
野 博幸社会保険労務士
高校卒業後、地元の信用金庫勤務を経て27年間職業ドライバーとして貸切バスやトレーラー運転業務(主に石油製品・液化天然ガス)に従事。2019年、社会保険労務士試験合格後、富山県内の一般企業総務部門へ転籍。給与計算・社保資格得喪・労務相談などに対応している。2023年4月開業予定。